解決した医療過誤事例

ここで過去に解決した事例をご紹介致します。
不必要な頚部手術
事例の概要
平成○年10月26日、原告は頸部の右側が腫れたため、被告医院を受診した。被告から、「この腫れは脂肪であり、手術で摘出したほうが良い」と説明を受けた。11月15日、被告医師は触診、頸部レントゲン写真より頸部脂肪腫(脂肪組織由来の良性腫瘍)と診断し、原告に外科的切除を勧めた。そして、同月16日、被告医師は局所麻酔下に腫瘍摘出術を施行した。しかし、脂肪腫を同定できず、創部より多量の出血を生じ止血困難となった。その際、被告医師は創部内に手術針を残存させていた。その後、被告医師は出血のコントロールのため原告を近隣の総合病院に転院させた。
 原告に対して、転院先病院において緊急手術で止血処置が行われ、出血はコントロールされた。同月29日、残存した針を除去するために、全身麻酔下で2回目の手術が行われ、針は除去された。甲状腺の病理学的診断により慢性甲状腺炎(橋本病)と診断され、頸部脂肪腫は誤った診断で甲状腺の外科的切除の必要性はなかった。
2回の頸部手術により、頸部に瘢痕(長さ14cm、瘢痕の幅2~4mm、縫合糸瘢痕の幅12~23mm)が残存し、その後、瘢痕部の発赤は白色化しあまり改善傾向が認められなかった。

患者側の主張
原告の頸部の腫れは慢性甲状腺炎(橋本病)によるもので、外科的切除は意味がない。全く必要のない手術を施行され、多量の出血を生じ、さらに創部に残存した針を除去するために全身麻酔下の2回目の手術を施行せざるをえなかった。この結果、頸部に醜状痕が残った。このため販売店員などの仕事に再就職できなかった。この頸部の醜状痕は後遺障害10級に相当する。
病院側の主張
原告に生じた傷害は治癒不能の後遺障害といえない。また原告の首の白色線状痕は化粧等を行えば、就職の障害にはならない
結論
判決で原告の主張である後遺障害別等級表10級に相当することが認められた。
逸失利益         256万5717円 (原告の主張のとおり)
慰謝料
入院慰謝料         50万円    
後遺症慰謝料       360万円    
医療過誤による慰謝料  50万円    
弁護士費用         70万円    
合計786万5717円
感想
過失、因果関係は比較的問題なく認められたが、損害額の認定が争点となった。
 甲状腺の腫れを超音波検査や頸部CTなど、断面像がよくわかる検査を施行しないで、単純X線写真のみで脂肪腫と決めつけ、切除手術を施行したことは、ずさんな医療行為(そもそも手術適応はなかった)と言わざるをえない。さらに、術中に出血のコントロールができなくなり術野に針を残し再手術が必要となったことも未熟な手術手技と言わざるをえない。
 あまりに過失が明らかで重大なため、損害額の認定(特に逸失利益)で、原告の主張が認められやすくなったと考えられた。また、医療過誤による慰謝料という項目で50万円が認められたことは特記すべきであると思う。